2013年3月1日金曜日

(※ネタバレ)『聲の形』についてあれこれと

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週刊少年マガジン2013年12号に掲載された大今良時先生の読み切り漫画、『聲の形』。
聴覚障害といじめを扱ったストーリーで、「衝撃作!」「一度は読むべき!」などと煽られ、聴覚障害当事者の間では賛否両論あり、とにもかくにも話題になっているようです。
聴覚障害者の出てくる小説や漫画は取りあえず読むことにしているので、発売当日に買って読んでみました。
読み終わった直後のわたしの第一声。
醒めてます(笑)
いやだって、読了直後は、何と言ったらいいのか、本当に正直思い浮かばなかった。
この感想を書くのにも、とても悩みました。


わたしのこと。

漫画の話題に入る前に私の生い立ちを簡単に。
私は三歳半に聞こえにくいことが判明し、補聴器をつけ始めましたが、聾学校には行かず、家の近くの健聴の小学校に通いました。
いわゆるインテ(インテグレーション)出身です。
※インテグレーション:統合教育ともいう。健常者と障害者を同じ場所で教育すること。

生まれつきの失聴ではなく発声には問題があまりなかったためと、1対1ならば会話にそれほど不自由はしなかった(ように見えた)ために、ろう学校という選択肢は、母の頭にはなかったようです。

中学・高校とも健聴の学校に通ったため、ろう学校の経験はありません。

学校では、授業についていけず落ちこぼれることはありませんでしたが、グループ活動や集団行動は、他の生徒の喋っている内容などが聞き取れないため、とても苦手でした。

どうしてもクラスで浮いた存在になり、小学校高学年のあたりはイジメられていました。
具体的には仲間外れ、陰口、無視など、「イジメなの?イジメじゃないの?」というすれすれのライン。
大人にバレるような、怪我を伴う暴力とか補聴器壊したりというようなものではなく、言葉の暴力や無言の圧力が多かったです。

『聲の形』が普通学校でいじめを受ける聾の女の子のストーリー…と聞いて、「なにそれ、わたしじゃん!」とワクワク(?)しながら読んでみたら、あれれれれ??

『聲の形』の硝子は私ではなかった

読んでまず感じたものは、「違和感」と「感情移入できない疑問」でした。

声を出さない硝子

『聲の形』は、石田ショーヤの学校に、西宮硝子というろうの女の子が転校してくる場面からストーリーが始まります。
転校して最初の日、硝子はノートに前もって書いた文を見せながら自己紹介。
声なしで。

ここで最初の違和感を感じました。
声を出さずに筆談に徹する…ステレオタイプ的な「ろう者」だなあと。

まあ、中にはそんなろう者もいるかもしれません。
が、現在、生まれた子どもが聞こえないと分かると、多くのケースでまず力を入れられるのが手話…ではなく、「発声訓練」です。
大人になり、社会に出てもコミュニケーションに困らないよう、徹底的に発声を叩き込まれます(これの是非については、ここでは言及しません)。
そのため、例えメインのコミュニケーション手段が手話であっても、手話の分からない健聴者を相手にする時は、頭が切り替わって自然に声が出る人が多いです。
筆談は面倒だし、時間がかかります。声で通じるならば声で話すろう者も多いのです。
もちろん、聾者全員がそうと言うわけではありません。

硝子は、歌は歌うのに、なぜ歌と本読み以外では、声を出さないんでしょうか。
ここまでの声の出さなさっぷり。
私は不自然に感じました。

はなから自分の声が通じないと分かっていて筆談に徹する人もいます。
声は出せても、声を出してしまうと相手が書いてくれなくなるので、最初から筆談で、声は出さないと決めているという人もいます。
なので、漫画の硝子が全くあり得ないという設定ではありません。

あるいは、家庭が「ろう者は手話で会話できるんだから、声は必要ない!」という教育方針なのかもしれません…が、そんな親だったら普通学校ではなく、ろう学校に入れるでしょう。

…にしても、ここまで声を出さないで筆談というのは、少しステレオタイプ的な聴覚障害者像に私は感じました。歌うのに。

あ、「ノート」という小道具を効果的に演出するため…なのかもしれません。

きこえの教室

いわゆる難聴児を対象とした「通級指導教室」のことです。
う、羨ましい。私の学校にはそんなものなかったぞ。

学校によって状況は様々かと思いますが、どんなものか調べてみました。
きこえの通級指導は,普段は地域の小学校の普通学級で学習しながら,週に数回,「ことばときこえの教室」を設置している小学校(設置校)に通い,補聴器のつけ方や聞き分け・聞き取りの指導や,発音や話し方の指導,言語概念や語彙を広げる指導,コミュニケーションを豊かにする指導など,きこえの障害の状態に応じた特別の指導です。
通級指導教室/京都市  教育委員会事務局  総合育成支援課

『聲の形』にも、きこえの教室があり、先生がちゃんと出てくるのですが、あまり詳細に描かれていないのが残念でした。

合唱コンクールのことはもちろん、クラスで孤立してしまうことや補聴器を壊されたことなどに関しても、きっと硝子の相談を受け、それなりにサポートしているはずなのですが、ここではこの先生の出番は少なく、あまり描かれていません。

でも硝子がここまで派手にいじめられても自殺せずに済んだのは、もしかしたら「きこえの教室」という、苦しさを吐き出せる場の存在があったからかも…と勝手に想像してみたりします。

西宮タイム

先生が板書しながら喋ると分からない…これはありがちです。
前を向いてくれれば、口の動きで話している内容が分かるのですが、板書するために後ろを向かれると口が見えず、お手上げです。
私も困りました(大学でね)。

だけどさ…ここは先生の力量ですよ。
先生何とかしてください。硝子が止めなくても済むように。
まあ、この漫画に出てくる先生はダメダメなので、さもありなんですが、これは硝子が悪いんじゃなくて先生が悪い。

硝子は、分からなくなるとちゃんと手を挙げて授業を止めましたが、これ、とても勇気の要ることです。
実際、授業が止まる度に、「またかよ…」という空気が流れ…ああ耐えられない。
私だったらみんなに申し訳なくて、自分1人のためだけに授業止めるなんてとんでもないです。
分からなくなっても取りあえずはそのままにして、後で何とかするタイプ。
それでもなんとか、高校卒業までは頑張りました(大学後に頑張れなくなったという話は別エントリーでいつか)。

合唱コンクールで足を引っ張る硝子

この子、意外と自己主張強いですね。
「うたえるようになりたい」という気持ちが強かったのでしょうか。
口パクには甘んじず、隣の子に音程を手で調整してもらう方法で対処しようとしました。

私の中学校時代にも、合唱コンクールはありました。
口パク…とまでは行きませんが、小さな声で歌っていました。
自分が音程を外してしまうのは、親にさんざん言われて分かっていたので(もちろん、自分ではどこをどう外しているのか分かりません)、周りに迷惑をかけないようにちゃんと歌っているふりはしつつも、声はあまり出さないようにしていました。
もちろん、本当は、みんなと一緒にのびのび歌いたかったです。

硝子みたいにちゃんと歌っていたら、どうなっていただろうか…ちょっとやってみたかった気もします。

孤立していく

合唱コンクールで入賞を逃したことを機に(いや、合唱コンクールの前からその萌芽はあったのだが)、硝子はどんどん孤立していきます。
聞こえないのをいいことに硝子を悪しざまに言う場面…。

ここ、ちょっと胸が痛くなりました。
いくら聞こえなくても、自分のほうを向いてひそひそと悪口を言っていたら、雰囲気で分かるんですよ。
敵意を感じるんです。
でも、何か悪口を言っているようだけれど、何を言われているのか分からない。
言い返したくても、反論したくても、何を言っているのか分からないからできない。
しまいには、何でもない時でも、「もしかして、今、自分の悪口を言っていたのではないか…」という気がしてきます。
そりゃ、硝子も笑わなくなるわけです。

やがていじめはエスカレートし、ノートを池に投げ入れたり、補聴器を壊したり…え?補聴器を壊す…?

補聴器を壊してはいけません

硝子は、補聴器を5か月で8個、総額170万円分壊されました。
いくらなんでもここは盛りすぎでしょう。
こんなになる前にもっと早く、大人が介入するのが普通です。

もしウチの親だったら、1個壊されただけですぐ、学校に乗り込んできますよ、きっと。
もしかしたら、硝子の両親は、大金持ちで、かつ硝子の教育に関しては放任主義なのでしょう(半ば投げやりになってきた)。

とにかく、「補聴器高いんです!」というのが世の中に伝わったエピソードでした…。

壊さないでくださいね。大事なものなんですから。
メガネ踏みつぶされたら怒るでしょ?
メガネより高いんだよ!
メガネよりフィッティングに時間かかるんだよ!

いじめのターゲットが石田へ

石田に補聴器を壊されたあと、手話らしきものを出しかける硝子。
これ、「友達になれる?」と言おうとしていたと後で分かるのですが…。
おいおい硝子、キミなんで石田にそんな優しいの?
キミの補聴器壊したやつだぜ??
私だったらきっと殺意を抱く。

補聴器のことが校長にバレてから、ガラッとと態度を変える担任…ああ、ムカつきますね。
幸い、私の時にはこんな無責任な教師はいませんでしたが。

そしてクラスの生徒はいけしゃあと「自分はいじめてませんでした。石田くんがー」
ここは妙にリアルです。

で、いじめのターゲットは石田に移る。
いじめられる側に回って初めて、石田は「硝子が自分にいじめられている間、何を思っていたのか」について思いを巡らします。

それでもボコボコにされた石田を気にかける硝子に思わずヒドい言葉を投げつける石田。
ついに硝子もブチきれ、ふたりは取っ組み合って喧嘩に。
ああ、漫画的な展開だ…と思いつつも、やっと初めてまともにぶつかりあったなと安堵。
それまでは、石田と硝子の間では、会話がまともに成立していませんでした。
喧嘩して取っ組み合って、初めてお互いの気持ちをぶつけ合えたという気持ちが、微笑んでいるようにも見える硝子の表情のアップに表れているような気がします。

唐突に手話る5年後の石田

時は流れ、5年後に再会する2人(ここで一抹の不安を覚える)。
なぜか手話を覚え、話しかける石田、びっくりする硝子。
うん、予想どおり。

ようやく2人は手話を通してコミュニケーションできるようになり、なんだかいい雰囲気でもあり、めでたしめでたし。
イイハナシダナー。お幸せにー。

…じゃないだろう!!!
あまりに石田に都合の良いストーリーです。
なんじゃこりゃ?漫画か?(漫画です)

石田はなんでここで手話で硝子に話しかけたのでしょう?
硝子が手話で話したがっていたことを思い出した?
それだけで手話覚えちゃうのか。 と言うか、アレが手話だって分かるのか。
すげえな恋って(やさぐれてきた)。

硝子がクラスにいたとき、硝子は筆談でみんなとコミュニケーションしようとしていました。
だったら、再会した時に、筆談で話しかけるのが自然なはず。
そこをすっ飛ばしていきなり手話に行ってしまうあたりが、唐突すぎてなんだかすっきりしません。

別にいいんですよ。
ここで手話を持ってくるのが、ストーリー上、盛り上がることは私でも分かります。
だって漫画ですし。

しかし硝子!あなたは一体なんなんですか!(怒り?の矛先がなぜか硝子へ)

神聖化されている硝子の描き方について

  • 補聴器を壊されても、なぜか「ごめんなさい」と謝る。
  • いじめっこ先鋒の石田と友達になりたい。
  • 極めつけに、いじめのターゲットとなった石田の机の落書きをこっそり毎日拭いていた。
  • 再会してノートを渡すも、憎まれ口でしか気持ちを伝えられない石田を握手で受け入れる。
ああもう私は硝子の気持ちが分かりません。
どうしてここまでいじめられながら、いじめっ子の石田に対して、優しいいい子のままでいられるんでしょうか、硝子は??
硝子に憎しみや恨みのようなドロドロした感情、苦しみ、屈折はないのでしょうか…。

ここでふと考えます。私がこの漫画に感情移入できない理由。
それは、この漫画が徹底した「石田目線」で描かれているからではないかと思いました。
この漫画において、硝子の気持ちは、表情やノート等を通して僅かにそれも間接的に語られるのみで、詳細には描かれていません。

最初は不気味で足を引っ張るウザい存在だった硝子が、だんだん優しく良い子になり、最後にはもはや聖人然として見えてくる。
ある意味、石田には硝子が「そう見えていた」のでしょう。
とても少年らしいとも。

石田目線から描くことの意味

硝子の気持ちを極力描かず、あえて石田目線から描くことで、障害当事者よりも、一般社会(健聴者側)の共感を呼ぶ漫画になっているとも言えます。
もっと身もふたもないことを言えば、逆に硝子目線で描かれたストーリーだったら、一部の障害当事者の共感を呼ぶだけに終始し、ここまで盛り上がることはなかったと思うのです。
残念ですが、それが現実です。
さらに言うなら、そもそもマガジンに掲載されるような漫画にはならなかったと思います。

マガジンという巨大読者層を抱える大手漫画誌に掲載され、多くの人に読まれ、話題になったことにこそ、価値があると思います。
なぜならば、この漫画をきっかけに、聴覚障害当事者も含めた多くの人が、Twitterやブログなどで感想や意見を発信しているからです。

求めていたのは和解ではなく拒絶~普通学校で虐められた聴覚障害者が読んだ聲の形~ - Togetter

とある聴覚障害当事者(@tamalove019 さん)から見た「聲の形」の感想 - Togetter

〝「聲の形」を読んで〟|フミの随想録

W175 N57 : 大今良時先生の読み切り漫画『聲の形』感想(ネタバレ注意) - livedoor Blog(ブログ)

多数の人に読まれ、話題になり、ネットニュースやTogetterなどのメディアに盛り上げられ、拡散する…。
その過程で聴覚障害当事者の様々な「聲」が世に知られ、広まるといいなと感じます。

結論?

『聲の形』は、聴覚障害そのものをテーマとした漫画ではなく、あくまで設定のひとつ。
多くの人に、聴覚障害といじめについて、考えるきっかけを与えてくれたという意味では、この漫画が掲載されたことに感謝したいと思います。

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