ところがですね、ホビット原作って、大きく2つあるんです。
※私は原作を全部読んでいません。
よって、原文に忠実かどうかの比較ではなく、あくまで日本語訳で読んだ印象のみで書いています。
日本で読める「ホビット」原作
日本でホビットを訳しているのは二人。瀬田貞二さんと山本史郎さんです。
瀬田訳は岩波書店から、山本訳は原書房から出ています。
瀬田訳は、一番手ごろな文庫版はこれ。
児童文庫なので、児童書コーナーに行ってください。
同じ岩波から出ている瀬田訳ですが、こちらのハードカバー版は、トールキン自身が描いた表紙絵を採用しているので素敵。
横書きに抵抗がなければどうぞ。私もほしいです。
山本版もハードカバーと文庫があります。下のは文庫版。
細かいことを言うと、瀬田訳はトールキンの「ホビットの冒険(The Hobbit, or There and Back Again.)」の翻訳ですが、山本訳はダグラス・A・アンダーソンという方の書いた「注釈ホビット(The Annotated Hobbit : The Hobbit, Or, There and Back Again)」の翻訳です。
ですので、純粋な意味での「ホビット翻訳本」は瀬田訳のみということになりますが、注釈ホビットにも当然トールキンの書いた本編は掲載されていますので、よくこの2つが比較されます。
どちらがいいの?
私は両方読みました。結論から言うと、トールキンマニアでもない限り、最初に読むのは原書房版(山本訳)ではなく、岩波版(瀬田版)がオススメです。
原書房版(山本訳)は、映画の公開に合わせて訳が改定され、新版が文庫とハードカバーで出たばかりなので、手に入りやすいです。
現に、本屋の映画原作コーナーや映画館のショップで原書房版だけが置かれている所があるのを目撃しました。
ただ、仮に両方並んでいたとしても、装丁が岩波版はいかにも児童向け、原書房版は普通の文庫なので、子どもっぽい岩波版を敬遠して原書房版を選びたくなるかもしれません。
が、そこの迷える君、悪いこと言わんから最初は岩波版にしときなさい。
岩波版(瀬田訳)おススメの理由
岩波版(瀬田訳)を強くオススメする理由のひとつは、映画ホビットの固有名詞の日本語表記が瀬田訳準拠だからです。原書房版(山本訳)の固有名詞は、映画と微妙に違います。
例えば、ドワーフご一行様の名前は、
トリン・オウクンシルド(トーリン・オーケンシールド)、バリン(バーリン)、ドワリン(ドワーリン)、フィリ(フィーリ)、キリ(キーリ)、ドリ(ドーリ)、ノリ(ノーリ)、オリ(オーリ)、オイン(オイン)、グロイン(グローイン)、ビファー(ビフール)、ボファー(ボフール)、ボンバー(ボンブール)
といった感じです(カッコ内が瀬田訳です)。
ただでさえ登場人物が多い作品、名前を見てパッとイメージできないといちいち混乱します。
瀬田さんの訳文には独特の味わいがあって、しみじみするし、情緒があるし、ちょっと古風なんだけどそれがまたいい。
翻訳だけでなく、絵本をご自分でも手がけてらっしゃったくらいなので、センスがあり、親しみやすい文章です。
ちなみに瀬田さんの絵本の中では「きょうはなんのひ?」がお気に入りです。
一方の山本訳。
地の文章は簡潔で、むしろこちらが読みやすいという方もいるかもしれませんが、問題はセリフ。
時々ぶっ飛んだ珍訳が出てきます。
「こりゃ、おどろき、ももの木、バナナの木じゃね!」(上 P53)いくらガンダルフとは言え(←どういう意味だ)、イスタリがそんな寒いギャグ言うか…??
ここ、もともと旧版(改訳前)は「ナンタルチア!」と訳されていたようで、山本訳ホビットが「ナンタルチア版」と揶揄されるゆえんとなっています。
知ってます、ナンタルチア?
ナンタルチアってどういう意味の言葉ですか??昔流行った言葉かなんかなんですか... - Yahoo!知恵袋
私は若いのでそんな古いのは知りません(笑)
サーラバイバイ(上 P23、ほかあちこち)ビルボやドワーフは、「おかあさんといっしょ」を見て育った世代なんですかね(爆)
愛シ子チャン(ゴラムのセリフ あちこち)ええと…。
有名なゴラム(ゴクリ)の「いとしいしと(My precious)」がこんなことに…。
巻末に、「なぜこの翻訳に至ったか?」という山本さんの
あと、キャラがちゃんとたってない。
特にドワーフたちとビルボがなんだか似たような口調で、誰のセリフか分かりにくいです。
キャラクターに親しみが持てないと感じる方もいるようです。
瀬田訳のゴラムは、気持ち悪く不気味なだけでなく、ほんの少し愛嬌があるんだけど(それは映画も同じ)、山本訳だとただの気持ち悪い生き物…。
ビヨン(ビヨルン)は粗野なおっさんだし、ビルボはかわいくないし…(ry
山本訳(原書房版)のいいところ
原書房版もいいところはあります。まず、翻訳元のホビットの版が新しいこと。
ホビットはトールキンが何度も書き直してるせいでたくさんバージョンがあるんです。
瀬田訳はちょっと古いバージョン(第2版)の翻訳です。残念ながら瀬田さんは亡くなられているので、新しい版の翻訳はありません。
山本訳のほうが新しく、第4版を元にした注釈ホビットを翻訳しています。
また、原書房版は「注釈付きホビット」なので、アンダーソンさんというトールキン研究家がつけた詳細な注釈がついています。これがなかなか面白い。
巻末には付録として、ガンダルフが冒険をお膳立てした裏話的な物語(エレボールの探求)が掲載されていて、これも面白い。
※ファンは「終わらざりし物語」のほうを読みましょう。こちらのほうが詳しいです。
まとめ
要は、岩波版の瀬田訳は楽しく読める児童文学、原書房版の山本訳はオタク向け資料集的な位置付けでしょうか。トールキン作品への第一歩なら、ぜひまずは瀬田訳で楽しく読んでもらいたいです。
指輪物語も瀬田訳だしね。
まあ、いちばんのオススメはきっと、瀬田訳でも山本訳でもなく「原書(英語)」なんでしょう…。
いつか読んでみたいです。